【古雅楽館】化石

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石巻市稲井から切り出される『稲井石』は300年以上の歴史をもつ銘石で古くは『井内石』、『仙台石』とも呼ばれ伊達藩の厳重な管理により産出されてきた。青黒灰色の柾目(まさめ)の様な縞模様が美しく、年を経るに従って趣のある風合に変化していく。最大の特色は大きな石材がとれ硬く折れにくいため、石の板として立てて使うことが出来ることにある。モニュメントとしての用途は明治以降、顕彰碑や慰霊碑をはじめとして全国各地で重用された。大崎八幡宮や塩竈神社の石碑も稲井石である。宮城県内の古い墓石は大抵そうであったし、社寺の階段や敷石、河川の護岸石にもよく使われてきた。切り出した石材の破片は大小の砕石になって、道路の舗装に用いられた。

日本で道路舗装が本格化したのは1960年代で、高度経済成長期の一環として70年代前半にはモータリゼーションの進展と合わせて急速に舗装率が高まった。それ以前の道路は簡易舗装として砂利を敷いただけに過ぎず、ヒトにもクルマにも優しいとは到底言えなかった。タイヤが跳ね上げる砂利は下手をすると歩行者を直撃する。道路際の民家では窓ガラスを割られる被害が多く、石つぶての防御に手を焼いた。クルマはクルマで砂利(=砕石)は文字通り石を砕いた(割った)だけだから、角が取れていないためタイヤを傷つけパンクを起こし易く、クルマの往来が激しい道は砂利のワダチが出来てハンドルがとられるし、カーブや急ブレーキはスピンしやすいなど、正にダート走行の運転技術がモロに試された。

砂利道は補修も大変で路面を均(なら)したり、定期的に砂利を補充しなければならない。大概(たいがい)の主要道では道端のそこかしこに砕石を積み上げた砂利置き場があり、ガキ共にとっては格好の遊び場だった。小6の頃だったかある日学校からの帰り、いつも通る公園脇に新しい砂利が積まれているのを見つけた。 普通の砕石以外に漬物石ぐらいの粗大な石の山が積み上げられている。何の為なのかコドモには知る由も無かったが、どちらも採石場から運んで来たばかりらしく、濃灰青色の表面は埃や泥の汚れが殆ど無かった。大きな石を何個積めるか他愛のない遊びをしているうち、ふと珍しい模様のある石が目に留まった。石の表面に楕円形の菊の花びら状の盛り上がりがある。

前章にも書いたが、小6ともなれば古生物の知識は相当身についていたから、咄嗟(とっさ)にアンモナイトの化石ではないかと直感した。稲井石は中生代三畳紀の水成岩である砂質粘板岩で堆積後横方向から強い圧力を受け、産出するアンモナイトの化石は大抵押しつぶされて楕円形なのが特長と教育委員会の先生から教わっていた。また稲井産アンモナイトはなかなか出ないとも言われていたから、労せずして化石を発見し、有頂天になった気持ちは計り知れない。 翌日学校に持って行って同級生に見せびらかしてやろうと、ひとまず家に持ち帰ることにした。

ところが世の中そんなに甘いものではなかった。母親も含め近所の人達は持ち帰った化石を見て「これはお墓の台石に刻まれた菊の花の彫刻で、例え破片でも見知らぬ墓石を家に持ち込むのは縁起が悪いから捨てろ」という。私がいくら説明しても聞く耳を持たず、断固捨てようとしない私は最後に怒鳴られて幕となった。その石はしばらく庭の片隅に転がっていたがいつのまにか無くなってしまった。

それが本物の化石だったのか大人が言う墓石の断片だったのか、今となっては知るすべはないが、ロクに事を調べようともせず頭ごなしに決めてかかるオトナの理不尽さに子供心は大きく傷ついた。

そんなこともあって化石には特別の思い入れがあるのだが、古雅楽館のコレクションではどちらかというとマイナーな存在である。一つにはレアな化石は値段がベラボーに高いことが挙げられる。発掘に係る手間や経費を考えれば当然のことなのだが、それを考慮してもおいそれとは手が出ない程高価だ。だからと言って国内産新生代の植物化石等はポピュラーすぎて食指が動かない。ミネラルショーでも化石よりは鉱物標本に目が行くので買ったことがない。それと化石マニアからは顰蹙(ひんしゅく)を買うけれど、色と重さが展示場所を限られたものにしてしまう。元々石なのだから重いのは当たり前で、しっかりした台に置かないといけないし、褐色・灰色・黒といった石の色と化石の形状はインテリアとしてなかなか周囲とマッチしない。

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古生代中期の海底を描いた想像図。画面中央、黒いのが三葉虫。左端赤い「逆さほうき」がウミユリ。

所有している何点かは皆、海外で求めたものばかりで、その中から二つほど紹介したい。一つは『ウミユリ』の化石。『ウミユリ』とはウニやヒトデ・ナマコと同じ棘皮(きょくひ)動物の仲間で古生代初期に出現し、栄枯盛衰を繰り返しながら現代も深い海の底で生きている。激動の地質時代を生き延びてきただけあって種類も非常に多くバリエーションに富んでおり、現生のものは体長50cm位だが古生代の大きなものは茎の長さが数メートル、冠部の直径数十cmに達するものがあった。石灰質性の小骨で形成されていることから化石になり易く、大繁栄した古生代中後期に生成された石灰岩には大概含まれており、日本でも各地から産出する。ただ死骸は柄の節がばらばらになるため殆どが断片で、重ねたコインを崩したような状態のものが普通。

立派な標本となるとやはり海外の物でアメリカやモロッコ産が名高く、大きく完全な形は飾っても見栄えがする。ただ個人的には冠部の腕は如何にもギーガー風で、飾るには家族から猛反対が出そうだ。此処にある標本はベルギー・ルクセンブルク国境に近いドイツのブンデンバッハで産出した全長10cm位の可愛らしいものだが、保存状態が非常に良く冠部の触手や各組織をはっきり見て取れる。ブンデンバッハの地は古生代デボン紀の堆積岩『ハンスリュック粘板岩』といい、一方向に薄く剥がれる性質を持つことから古代ローマではスレート屋根として利用された。化石は他に『ヒトデ』や『三葉虫』、『軟体動物』が主で、奇跡的とも言える完全な状態の標本を産出するため世界中の博物館が収集・展示している。現在石材の切り出しはしていないが、採石場跡はプロ・アマ問わず化石コレクターの訪問が絶えない隠れた名所である。

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【写真左】ウミユリの化石はベルギー、ブリュッセルのミネラルショップで購入した。化石のディスプレイには苦労させられる。二転三転して今はこんな感じ。【写真右】拡大写真。向かって左が柄で右が冠、腕の部分。

もう一つは魚の化石で、25年前アメリカ・ユタ州を視察・ 研修した時に立ち寄った田舎町の『ロックショップ』で購入した。『ロックショップ』と言っても音楽の『ロック』ではなく(そちらも大好きだが)、のことでアメリカ語だ。この研修旅行はブライスキャニオンやモニュメントバレー10など大自然を巡る、アウトドア派や私の様な地学マニアには夢のような体験だったが、詳細はいずれ改めて記してみたい。

で、『ロックショップ』だが中西部の町でお土産屋を探すと大概この手の店になる。石ころだけでは食っていけないのでカウボーイグッズや『ネイティブアメリカン』物なども併せて売っているので、フツーのお客さんでも結構楽しい。こういった店は奥さんや家族が店を守り、旦那や友人の(或いは契約した)ウイークエンド山師が 自分だけしか知らない採集地から化石や鉱物を掘り出し、クリーニングして販売するという仕組みだったが今はどうなっているのだろう。

我々が入った店もいつもは奥さんが留守番しているそうだが、偶々その日は旦那がいて突然訪れた東洋からの訪問者に興味深々の様子だった。ツアーのメンバーはそれほど化石に興味がないので手持無沙汰だったが、私だけ制限時間内に掘り出し物を見つけなければならない(と、勝手に自分に言い聞かせている)必死の形相は余程奇異に映ったのだろう、あれこれと話しかけてくる。このへんは東南アジアの土産物屋と変わらないが、受け答えが面倒な上に西部訛りの田舎アメリカ語だから言っていることの半分くらいしか分からぬ。

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ポピュラーな化石も一応何点かあり、左が三葉虫、右はアンモナイトをカットしたもの。隔壁が繋がっている様子(連室という)が良く分かる。

どうやら向こうは自分たちの獲物を売りたがっている様子だったがモノが三葉虫中心なので興味をひかず、結局『サカナ』と『水晶』を買うことにした。こういった店で買い物する時の問題は商品ラベルが付いていないということで、単に記念として買うのならいいけれどコレクションの対象とするのなら、その土地の産か外来か見極めるだけの予備知識が必要となる。そんな訳で間違いないと踏んだのはどちらも地元産ではなく『サカナ』はワイオミング州、『水晶』はアーカンソー州のものだった。

ワイオミングと聞いても殆どの方は馴染がないのではないか。 アメリカ中北部の州で面積は日本の7割近くあるのに人口は仙台市より更に少ない56万人である。州は直線で仕切られた長方形をしており11、大半が山脈と高原で牧畜業が主要産業、1960年代初期日本国中が熱狂したTVドラマ『ララミー牧場』12の舞台でもある。州の西北部にアメリカで最初の国立公園となった『イエローストーン国立公園』があり、ユタ州と接する西南の角にコロラド川へ注(そそ)ぐ『グリーンリバー』が流れている。

 『グリーンリバー』を有名にしたのは川沿いに広がる地層で『グリーンリバー・フォーメーション』と呼ばれ、5,000万年前13は巨大な湖だった。波の荒い海と違い湖は静かなのと平らな湖底はキメの細かい砂や泥の相乗効果で化石が出来上がる絶好の条件であった。地層はバームクーヘンの様に薄い層が重なっており14、形成されるのに費やされた年が容易に推測できる極めて稀な例として地質学界で知られている。地層の厚い部分は1.8mもあり、計測の結果約4,000年かけて出来上がったものだという。今でも主に魚の化石が発掘され続けているので、日本国内でも比較的手頃な値段で買うことができ15、また母岩が明るいクリーム色の砂岩なので化石とのコントラストが美しく部屋に飾っても重苦しい感じがしない。

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ディプロミスタス。この様に明るい色なので部屋の隅でも暗い感じがしない。写真をクローズアップしてもらうと骨の一本一本が明瞭に見て取れる。

買い求めた標本は間違いなくプロの手によるもので、化石の状態もさることながら標本をセンターに持ってくる美的感覚とスクエアな岩の切り出し方が見事。種類は絶滅魚『ディプロミスタス・デンタタス16』といい、イワシやニシンの祖先なので小骨が多いのもさもありなんだ。買った時は種類までは言えなかったが、産地を言い当てたついでにコンディションの良さも褒めると店の旦那はいたく感心して、一割位値引きした上に自分達が掘ってきた小さな三葉虫をオマケとして何個か付けてくれた。

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オマケにもらった三葉虫。子供のお土産に格好だったが、女の子だからなのかそれ程感激してくれなかた。

今後化石を購入する予定はもうないだろうと思うが、もしチャンスがあれば稲井産のアンモナイトを探したい。60年越しのリベンジとして・・・・。

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 1.全国の道路舗装率は(%はいずれも約) 1960年:5%以下、65年:7%、70年:18%、75年:31%で現在は79% 。

 2.古生物としては最も有名なもののひとつ。古生代半ばから中生代末まで栄えた頭足類。現生のオウム貝に良く似ているが、むしろイカやタコに近いといわれる。

3.以前は仙台市内の高校文化祭で青葉城裏手、『竜の口渓谷(たつのくちけいこく)』産の植物や貝の化石がよく展示されていたものだったが、今は渓谷への立ち入りは禁止されている。他に栃木県塩原温泉の『木の葉石』もポピュラーで、『木の葉石化石園』で化石を購入可能。

4.古生代中期のデボン紀(注7参照)で約3,000種が登録されている。

5.有名な所では岐阜県大垣市金生(きんしょうざん)山、長野県塩尻善知鳥(うとう)峠など。

6.スイス人画家、『エイリアン』のデザイナーと言えばお分かりでしょう。これで1980年のオスカー『視覚伝達効果賞』を受賞。 人にもよるが生理的嫌悪感を抱かせる造形は極めて独創的で追随者を輩出した。

7.古生代中期、約4億1600万年~約3億5920万年前の時代。

8.これも古生物として小学生でも知っているほどポピュラー。古生代全期間に繁栄したが末期(約3億年前)に絶滅した。有名な割に日本では殆ど産出しない。

9.ユタ州南部の高原地帯に展開する国立公園で実際はキャニオン(渓谷)ではなく、スリバチ状の地形である。風雨による浸食で奇妙な形の土柱や天然橋が作られ、岩に含まれる鉱物によりオレンジ~ピンク色の奇観を呈する。

 10.名前を知らなくても映画や写真を見た人は多いはず。ジョン・フォードの『駅馬車』や『バック・トゥ・ザ・フューチャーPT3』の舞台となった。2億7千万年前の地層が浸食を受けて独特の地形となり、訪れる旅行者に神秘的且つ強烈な印象を与える有名な観光地。

11.地球が丸いのと19世紀に州境を定める際測量が不完全だったため厳密には直線がずれているところがある。正確に言うと州境が経線と緯線で仕切られているということで、アメリカの州では他に隣のコロラド州とユタ州がある。

12.1961年度洋画ドラマ視聴率第一位。NET(現テレビ朝日)系列で放映され、最高視聴率が43.7%と『あまちゃん』の倍を記録したオバケ番組。

13.新生代・旧世紀・始新世にあたる。

14.学問上では『葉理』といい、地層を形成する最小単位の層。

15.一頃エスパル仙台3Fにある『THE STUDY ROOM』でも販売していた。

16.Diplomystus Dentatus 全体で7種類登録されているが、その中では最も有名でポピュラー。別種の化石は日本でも時折発見される。

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【トップ写真】再びクレマチスで遅咲きビチセラ系の『エトワール・バイオレット』。丈夫で沢山の花が咲きバラとよくマッチする。 

 

 

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