【古雅楽館】 ブックシェルフ放浪記<想定外篇Ⅰ>

 

 

前々回の「ブックシェルフ放浪記」で、リビングの家具移動は一段落した(と思った)。その後は「ピュアオーディオ」とAV用にそれぞれスピーカーを使い分けて、手始めに音楽は昨年末漸くLPを手に入れたプッチーニの『つばめ』全曲を、映画は『ブレードランナー2049』を鑑賞しながら、「古雅楽館ワールド」にどっぷりと浸る予定だった。ヲタクの世界、街角を曲がれば「お花畑」が待っていると期待は膨(ふく)らむばかり。しかーし! 世の中、一寸先は闇、何が起きるか分からない。角を曲がって目にしたのは暗く荒れた海だった。荒れた海と言えば「日本海」である。「日本海」と言えば「東尋坊(とうじんぼう)」。「東尋坊」なら「船越英一郎」。「船越英一郎」なら「松居一代」だ(何のこっちゃ)。

 

 

 

【写真上】美貌のソプラノ歌手、アンナ・モッフォをはじめとするオールイタリアンキャストの『つばめ』。二枚組LPで1973年頃発売されたが、ネットオークションで落札した品は盤面がまっさらで完全な新古品。超ラッキー!

 

コトの起こりは一枚のLPレコードから始まる。【古雅楽館】『高音質ソフト試聴会』文末に書いた『テレサ・テン<ベスト2>』の音に衝撃を受けてから、<ベスト3>、<ベスト4>が発表される都度、次々とLPを購入した。いつものAudioshop Keikiへ<べスト4>を受け取りに行ったのは2月中旬だったが、精算を終えて帰ろうとした背中に何とも言い難いオーラを感じた。スターウォーズ(SW)で言うところの『何だか嫌な予感がする』だ。その時までチューニングパネルの陰に隠れて気が付かなかったのだが改めて表へ廻ってみると、いらっしゃいました御令嬢が・・・。スイス生まれの端正な容姿で、その名も素敵な『ステラ・メロディー』、アコースティック・ラボ社の小型システムスピーカーだ。

 

まるで昔の恋人に突然出会った気分である。一度だけ対面したのは今を去る20年前、アキバのど真ん中にあった「ヤマギワ電気」のオーディオルームで、あの時は『エラブル・ブルー』の清楚(せいそ)出で立ちだった。雑誌「Stereo Sound(以下SS誌)」の紹介記事でアコースティック・ラボの製品は全て目にしていたし、そこはかとない憧れを持っていたから、ヤマギワで会った時も初対面という感じはしなかった。ただ、我が家に招き入れたかったのはヤマヤマなれど、当時はマンション暮らしで子供達もまだ小さかったし、何よりも予算の確保が到底覚束(おぼつかなかったので諦(あきら)めざるを得なかった。

 

 

【写真上】左の<ベスト3>A面はオリジナルとカバー曲、B面は全編ヒット曲の中国語バージョン。A面の「あなたのすべてを」は佐々木勉の名曲だが、古雅楽館若かりし頃「生オケ」で唄いまくっていただけに、殊更(ことさら)思いが深い。右の<ベスト4>は全てがカバー曲(日本語)で、敬虔(けいけん)と愛情を湛えた歌唱力は、オリジナルとはまた違って『自家薬篭中の物(じかやくろうちゅうのもの)』にしているのが素晴らしい。

 

突然話は変わるが、オーディオの世界で、1980年代は正に激動の時代だった。1982年秋、初めてCDソフトとプレーヤーが発売され、デジタルミュージックの幕が開けた。4年後の1986年にはCDの売り上げがLPを追い抜き、世はデジタルが主流になる。ハード面では、奇しくも新進気鋭のオーディオデザイナー(クリエーター)による理論と研究が実を結び、ハイテクを具現化した画期的な商品の発表が相次ぎ、スピーカーにも技術革新の波は押し寄せた。

 

当時のスピーカーは大体が直方体の「ハコ型」と決まっていて、小型スピーカーは低音域増強やセッティングの関係から(本)棚の上や本箱の中に置かれることが多く、それが別名『ブックシェルフ・スピーカー』の由来になった。『BBCモニタースピーカー』に代表される、それら製品群とは一線を画すコンセプトで登場したのが『セレッションSL6』を嚆矢(こうし)とするニューウエーブの小型スピーカー群である。

 

話が難しくなるので、ちょっとだけ書くと、『セレッションSL6』は設計者が求める性能を限界まで引き出すために必然的にたどり着いた大きさである。当時の最新鋭コンピューターによる解析技術で決定され、これまで付属品的な考えだったスピーカースタンドまで一体化して、システムとしての完成度を高めた。すなわち最初から小型スピーカーありきで開発されたものではないということだ。しかもセッティングは周囲に空間を設けてスピーカーを鳴らす、いわゆる『スタンド・アローン』の設置が前提という、これまた今迄例を見ないものだった。

 

 

 

【写真上】海外のオーディオショップ通販サイトに掲載された『セレッションSL6』で、中古とは思えないコンディションの良さ。これくらい広い部屋で鳴らせば本領を発揮するが、日本で恵まれた環境を与えらるのは・・・。大変優れたスピーカーなのだが、理想を追求するあまり能率が82db(デシベル)という殺人的な数値なので、極めて鳴らしにくいという点でも有名だった。古雅楽館がオーディオに目覚め最初に導入した、同じメーカーの『セレッション・ディットン11』が90dBだからその差が8dBで、同じ音量で鳴らすのにアンプは約6倍以上、数百ワットのパワーが必要になり、とても手の出せるシロモノではなかった(その時使用していたアンプは40Wで必要充分な音量)。

 

1983年日本に初めて紹介された時、広大な音場、ぴしっと決まった楽器やヴォーカルの定位、小型スピーカーらしからぬ低域まで伸びきった再生音がSS誌で驚愕(きょうがく)と共に紹介され、保守的な日本のオーディオシーンに一大センセーションを巻き起こした。内外のスピーカーメーカーに与えたインパクトも大きく、その後各社は追随(ついずい)するように、スピーカーの素材、エンクロージャーの形状や材質等、様々の角度から見直しを計られたプロダクトデザインの小型スピーカーを発表し、その流れは今でも続いている。

 

現在はコンピューター・シュミレーションによる最新の音響(&音場)理論と、それを裏付ける技術力の向上から音域の深さや高さまで実感できる、或る意味大型スピーカーを凌ぐほどの性能を秘めた製品まで登場し「小型スピーカーは大型機の補助的なもの」という概念は完全に過去のものになってしまった。すなわち大型機>小型機という単純な構図はなくなり、今やベクトルが全く異なる性格を持ったスピーカージャンルのひとつとして確立しているのである。

 

 

 

【写真上】『アレキサンドリーナ』はベランダの手摺(てすり)から手が届くほどに枝を広げているので、花々を間近に見られるのが楽しい。【写真下】花付きの良さは『レネイ』が一番で、樹全体が花で埋もれる。リビングダイニング真正面にあるから、この時期は毎日が花見気分で朝飯を、休日の夕暮はジンのソーダ割りを飲みながら「一人花見」を満喫(まんきつ)、一年で最も贅沢な日々である。

 

《この項続く》

__________________________________________

 

1.原題『La Rondine(ラ・ロンディーヌ)』 プッチーニ59歳の作品で1917年に初演された。この後のオペラは『三部作』と呼ばれる一幕物三作と未完に終わった『トゥーランドット』だけである。従って本来はもっと知られて良い作品なのだが、あまり(殆どと言っても良い)上演されず、CDもamazonやネットオークションにぽつぽつ出る程度で、LPはレア物に近い。オペラ通に言わせると、物語の流れが平板で盛り上がりに欠けるからとか。古雅楽館にとっては悲恋のラブストーリーを、魅力的で洒落たセンスのメロディーで綾(あや)なす表現力はさすがプッチーニと思うのだが・・・。

 

2.1982年制作の『ブレードランナー』続編。古雅楽館にとって第一作は、マイ・フェイバリット五大SF映画のひとつなので、レンタルが多い映画の中、久しぶりにセル版を購入した。特典映像も含め繰り返し見直す予定が、本テーマが原因で未だに封を切っていない(泣)。画面の大きさやサラウンドの問題もあり、「TVでは絶対観ない」と自分に言い聞かせて我慢している最中だ。

 

3.I have (got) a (really) bad feeling about this」 SWエピソード(=EP)Ⅰ~Ⅶの全て(「ローグ・ワン」も含む!) 誰かしら発言するキメゼリフ。カッコの中はその時次第で代わりに使うか適宜(てきぎ)付け加える。最近作EP8「最後のジェダイ」ではこのセリフが登場しないのでSWフリークの間では大騒ぎになった。が、ライアン・ジョンソン監督は取材に際し「約束事は守っている」と発言している。では「どこに?」。

 

4.オーディオにのめり込んで行くと、機器のみならず接続ケーブルや電源コード等のアクセサリー選択にも気を使うことになる。更に重要なのはリスニング環境だ。専用のリスニングルームでも、音場のチューニングは必ず行っている。まして普通のリビングルームで聴くとなれば、余計な音の反射、共鳴、低音域のくぐもり等をどう解消するか問題が常に付きまとう。その解決案の一つとして多くのオーディオファイルに重宝されているのが『ルームチューニングパネル』だ。大抵は吟味された木材を主体に複合素材を組み合わせた衝立(ついたて)型のパネルで、複数使用により部屋の音響特性を著しく改善する効果がある。ただ生活の場で使用するとなると、オーディオを理解していないヒトから邪魔者扱いされることは目に見えているので、古雅楽館でも設置はしていない(出来ない)。その代り、無い知恵絞って色々工夫しているが、詳細はいずれ。

 

5.自分の薬箱の中にある薬のように、思い通りに使えるもの。または自分のものとして完全に手中に収めた知識や技術のたとえ。

 

6.BBC(British Broadcasting Corporation)は英国に於ける日本のNHK的存在で、本来の放送局のみならず、独自に放送用機材の研究開発を行っている。その中で重要なテーマの一つ、放送プログラムの音質向上を目的に、検聴機材として厳格な基準で開発されたのが『BBCモニタースピーカー』である。モニターと名が付く以上、放送スタジオは勿論のこと、移動中継車等への搭載も考慮されるので、様々なサイズが専門のメーカーで作られた。そのノウハウを商業ベースに適用させたのがBBC公認による民生機で、1970年代初頭に発表された『ロジャースLS3/5a』を筆頭とする小型スピーカーである。実際はライセンス生産という形で『チャートウェル』、『KEF』、『スペンドール』等の英国各社から同形式のスピーカーが発売された。本文で述べたように伝統を重んじたコンサバティブな音質であるが、今でもこの音質を好むオーディオファイルは世界中にいて、昨年復刻版が発売されている。

 

7.先端に『鏑(かぶら)』という中空の武具を取り付けた。射ち放すと鋭い笛のような音を発し、合戦の始まりを知らせる手段として用いられた。転じて「物事の始まり」の意<=鏑矢(かぶらや)>。

 

8.この設置スタイルのメリットは本文にもある通り音の定位と距離感、立体感が極めてリアリスティックに再現されることである。ただそれだけ性能の真価が問われるので、中途半端なスピーカーではモロにアラが出てしまう。また日本では住宅事情の制約もあって、専用リスニングルームでもない限り、指定通りのセッティングはなかなか難しい。

 

9.例えばアメリカの『マジコQ1』。本体の大きさは高さと奥行きが約36cm、幅が約23cmだから、正面サイズはB4サイズの紙とほぼ同じ。専用スタンドに載せた時の高さは約112cmである。因みにお値段は400万円(!)。国産の『キソ・アコースティック HB-X1』は更に小さく、高さ32cm、幅14.8cmだから、ビジネス文書で使うA4とA5(=幅が全く同じ14.8cm)を折衷した大きさである。これがまた良く鳴るのでありますが、値段もそれなりの約205万円

 

_______________________________________

 

【トップ写真】古雅楽館の庭には狭いにも拘らずシンボルツリーは三本もあって、どれもマグノリアである(その年最初の開花は前号『あわびつぶ』トップ写真参照)。仙台各地の桜と同様、今年は開花が一週間早かったものの、満開になってからは気温の低い日が続いたので花持ちがよく、結構長い間楽しめた。左は道路際の『アレキサンドリーナ』、右は駐車スペース脇の『レネイ』。

 

トラックバック・ピンバックはありません

トラックバック / ピンバックは現在受け付けていません。

コメントをどうぞ