【古雅楽館】 あわびつぶ

 

 

物流がこれだけ進んだ今の世の中でも、その地に行かなければ手に入らない食品、食べられない郷土料理は依然として存在する。むしろ、TVの番組ネタ探しやSNSの普及で、昔よりも却って多くの特産品やマイナーな料理が紹介されるようになった(気がする)。大概は料理以外、ソノ気になれば通販で手に入るが、生鮮食品は鮮度を保つ意味でも難しいし、生産・収穫量が少ない物は殆どが地元で消費されるので、わざわざネットに出すまでもない。しかも地元限定品、特に海モノは他の地域では料理方法も(?)だし、一般の口に合うかどうかすら疑わしいので、やはりソコへ行かないと賞味できない。それが旅行の楽しみでもあるのだが・・・。

 

古雅楽館の現役時代、東京に転勤になった1980年代半ばは、宅配システは未だ構築途上であり、『クール宅配便』も一部で漸く始まったばかりで、居酒屋メニューに地方の特産物は殆どなかった。生の『夏牡蠣(=岩牡蠣)』や『秋刀魚』の刺身、『目光(めひかり)』の唐揚げ、『苦瓜(ゴーヤ)チャンプルー、『蕹菜(ようさい)炒めがポピュラーになったのはずーっと後の事である。呑兵衛の古雅楽館は居酒屋を通して、物流の進歩発展をその目で見てきたのだがその一つ、忘れられないのは(東京の)飲み屋に初めて『ホヤ』が登場した時である。

 

『ホヤ』は宮城県お住まいの方なら知らぬ人は居ない、三陸や青森・北海道の海産物で、シーズンになるとコチラでは何処のスーパーでも店頭に並ぶ程ポピュラーであるが、今でも中部以西で食されることは極めて少ない(と言われる)。「磯の香り」が独特で足が早いため、鮮度が落ちると益々匂いがきつくなる。そんな理由もあって同じ宮城県人ですら好き嫌いは極端に分かれる。

 

東京にデビューしたばかりの頃は、居酒屋のお品書きに「ホヤ貝」と書いてあるのを多く見かけた。「貝じゃねーだろー」と突っ込みたくもなるのだが、そこはじっと我慢して周りを見渡すと、やはりというかテーブルに並ぶ『ホヤ』は全くない。こちとらは懐かしさも手伝ってオーダーしてみると、店のオニイサンから「かなりクセありますけど、大丈夫ですか?」と念を押されることが一度ならずあった。鮮度はまあまあだがびっくりしたのはその値段、半身で600円以上である。旬の時期、こちらでは大きな物でも100円しないから10倍超。流通経費や廃棄率を考えると、そのような値付けにならざるを得ないのは承知しても、地元で食べるのが一番と改めて感じたことであった。

 

 

 

【写真上左】『アワビツブ』、仙台では小売だと大体一パック10個位入っている。【写真上右】塩をまぶして何度かもみ洗いする。

 

他の県もそうだが、宮城には今でも地元、それも極狭い地域以外では全く知られていない食材がまだあって、ここで紹介する『アワビツブ』もその一つである。正式名称はは『裳裾貝(もすそがい)』といい、貝殻に較べて軟体の足が異常に大きく、巻貝特有の貝殻の奥に身を引っ込むことが出来ない。いつもはみ出ている足が「裾」を引きずっている様に見えるためこの名が付いた。 

 

『エゾバイガイ科』のひとつで、瀬戸内海から中部以北にかけて生息するが、主な産地は東北・北海道である。石巻・女川辺りでは以前から嗜好(しこう)的に食べられていたらしいが、仙台にまで出回って来たのはこの1~2年、入荷時期もむらがあって何時でも手に入る訳ではない。むしろ昔から庶民に親しまれているのは青森県で、「ツブ」と言えば『裳裾貝』を指すほどだ。青森駅前地下にある市場の店頭には丸ごと茹でたものが売られていて、そのまま煮付などに使えるが、青森人に言わせれば「おでんにするのが最高」とのことである。ただし絶対陸奥湾産でなければならない。三陸産に較べると大振りであるため食べ応えがありそうだが、値段は高い。桜の時期、津軽のみならず青森の花見会場には、なくてはならぬ「おでん屋台」。こちらでは定番の「具」を押しのけて、人気の「ツブ」が看板商品宜しくセンターに陣取り、他では見られない情緒(じょうちょ)を醸(かも)し出している。

 

【写真下左】茹で上がった状態。この通り足がハミ出しているので、身を出すのが楽。【写真下右】串を刺して捩(ね)じりながら引っ張ると、キレイに取り出せる。

 

 

 

 

 

【写真上左】身を取り出した状態。途中でワタが切れることもなく成功率100%。【写真上右】ワタも含め、荒く切り刻む。

 

さて古雅楽館は行きつけの魚屋へ行った際、『アワビツブ』が並んでいれば今のところ必ず買うようにしている。理由は前述したように入荷が不規則なのと、新顔なので自分のレパートリーに加える「レシピ」がまだ確立しておらず、試行錯誤の繰り返し中だから。下茹では他の巻貝と同じだが、結構ヌメリが強いので荒塩で何回かもみ洗いする一部の巻貝と異なり『唾液腺(だえきせん)』が目立たず、調理の際に敢えて除去する必要はないが、気になる方は下処理してもそんなに手間はかからない。この貝は長時間熱を通しても硬くならないのが長所で、だから「おでん種」にされるのだが、(ためし)にフツーの「ツブ」と同様、茹で上げて「わさび醤油」で食べても、身の本体はシコシコ感はあるけれど淡泊な味わいで旨みに欠ける。「ワタ」の方が凝縮した濃厚な味がするのだが、そのまま単独で食べるには飽きがくる。

 

【写真下左】試しに身をわさび醤油で食べてみる。「しこしこ感」はあるけれど、「これだ!」という特徴は薄い。【写真下右】キムチ調味料で和えたもの。これに白菜キムチを混ぜてもよろし。

 

 

 

 

 

【写真上左】麻辣醤は四川省の調味料だから本来は海産物とは無縁なのだが、ワタと相性が良いのは新しい発見。花椒と唐辛子のスパイシーな刺激が淡泊な身を引き締める。【写真上右】酒専用のつまみだけではなく、ご飯のおかずにも合う。

 

和風としてオーソドックスな醤油味の「貝の煮付」はあまり好みではない。イタリアンはどうだろうとマリネやパスタなどヤッテはいるものの、満足度は未だしの感。それに対してエスニック風は容易に「らしさ」を演出可能で、『麻辣醤(マーラージャン)』と『ナンプラー』、或いは『キムチ調味料』と『ナンプラー』の和えものはシンプルながらもイケる。酒のつまみにぴったりだ。どちらも唐辛子が効いているので、メリハリのある味付けが今後制作のヒントになりそうだ。生姜(しょうが)や葱(ねぎ)、他の香味野菜を加えるかどうかも試してみる必要があるだろう。いずれにせよ、ネットには載っていない食材を自分なりに工夫して、「マイレシピ」にする、趣味として「創作料理は楽しいな」と思うひとときである。

 

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1.『アオメエソ』が正式名称だが、市場では『メヒカリ』の名で通っている。1990年代は雑魚の類で、蒲鉾や薩摩揚の材料にしかならず、本体が魚屋に出ることは稀であったが、味の良さが認められ今では高級魚の仲間になりつつある。唐揚げや天麩羅が王道だが、(自家製)「一夜干」もオツな味。

 

2.別名『蓊菜(えんさい)』、『朝顔菜』とも。『空芯菜』の名称が一般的だが、個人により商品登録されている。中国や東南アジアでは極めてポピュラーな野菜で、タイではレッドチリとオイスターソースで炒めた『パックブン・ファイデーン』がどこのレストラン(屋台)にもある定番料理になっている。

 

3.食物の日持ちが悪い、痛みやすいこと。

 

4.ヌメリをとると「味が落ちる」、「ダシが出ない」として、さっと洗う程度に留める人もいる。

 

5.巻貝の足とワタの間にあり、クリーム色をしたゼリー状の物体で通称『アブラ』。『エゾボラ属』肉食の巻貝に顕著で、エサを捕獲する際にマヒさせるために使うと考えられる。『テトラミン』という有毒成分を持ち、食べると目眩(めまい)や吐き気、酒に酔ったような症状を呈する。

 

6.大豆味噌に『花椒(ファージャオ)<=中国山椒>』と唐辛子をブレンドした「ダブルホット」な調味料。因みに『豆板醤(トウバンジャン)』はソラマメと唐辛子を麹で発酵させた調味料である。

 

7.数多くの商品がある中で、古雅楽館は「タケバヤシ」の『むーひ』を愛用している。理由は味が良いのが第一。それと保存料や着色料、甘味料、増粘剤を一切使用していないこだわりがGOOD! 

 

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【トップ写真】古雅楽館の春はモクレンの開花から始まる。トップバッターは『マグノリア・レネイ・アルバ』。ハクモクレンに似た姿だが開花は数日遅く、花容もふっくらしている。

 

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