【古雅楽館】 タリアセン

 

古雅楽館の家族は皆TV好きで、ファミリールーム(と言えば聞こえが良いが、カミさんとムスメ、マゴの寝室)では常にTVが点けっ放しである。それに対て古雅楽館は全くと言っていい位TVを観ないのでバラエティ番組やタレントの名前も知らず、みんなからバカにされ疎外感が強いこと夥(おびただ)しい。そんな中で唯一ONにするのが朝7時55分から。天気予報と8時からの国民的番組『朝ドラ』、それとオマケの『朝イチ』冒頭2分の『朝ドラ受け』。まあ『朝ドラ』も年中と言う訳ではなく、去年秋からのは全然観なかった。

 

今年春に始まった『ひよっこ』は、古雅楽館若かりし時代と重なるので、懐かしさも手伝い毎朝観ている。巷では「視聴率がどうの」とか「つまらない」とか様々な感想、意見が飛び交っていたが、ここに来て連日高視聴率をヒットし、手のひらを返したような評価ぶりである。

 

古雅楽館が感心しているのは丁寧で奥の深い描写と斬新な脚本(演出)。これまで『朝ドラ』定番の視聴者から期待される理想的なヒロイン像、困難を自ら打開していくサクセスストーリーではなく、ワルも居ない。ドジで不器用なフツーの女の子を等身大の目線から、(お父さん失踪以外)大事件とまでいかない日々の出来事を『序破急』をつけて描いている。メインストーリーの途中にコントまがいのサブストーリーが同時進行的に挿入される絶妙なバランス。ヒロインを取り巻く人々、それぞれが持つ「明と暗」がテーマになる逆転現象も時にはあって、それでもヒロインは霞(かす)まない。

 

このドラマは裏方さん達も「いい仕事」をしている。セットや小物も手抜かりないが、いちいち挙げるとキリが無いので、古雅楽館的観点から「えっ」とびっくりした事をひとつ。「あかね荘」住人のひとりだった、ヒロイン「みね子」のモトカレ島谷君の部屋にナント(!)稀代の巨匠建築家『フランク・ロイド・ライト』が設計した照明器具があったではないか。正確にはフロアスタンドでブランド名が『タリアセン』。

 

たまげましたなあ。ドラマの中でちらっと見せた画像では、高さが島谷君の背丈よりもあるしこの時期では唯一無二の『#2』で間違いない。舞台は昭和41年、ジェネリック家具などある訳ないので、ごく少数しか輸入されなかった本物だとすれば、当時の価格は最低でも10万円は下らない(多分もっとしただろう)。みね子の給料1年分(!)。流石、佐賀の製薬会社社長御曹司だけのことはある。

 

 

 

【写真上左】最初にして今に至るもフラッグシップモデルの『タリアセン2』。高さ約2mのタワーにブロックライトケース10個が互いに直角に配置され、それぞれの間に挟まる『遮光版』は上下どちらにも設定可能。このほかライトブロック5個の『タリアセン3』(高さ約75cm)、3個の『タリアセン4』(高さ約51cm)があり、それぞれ3種類のカラーから選べる。【写真上右】最近の雑誌に掲載されたYAMAGIWAによる『タリアセン』の広告。

 

何ですぐ分かったかと言うと、古雅楽館は東京在住時代、毎週土曜日はアキバ通いだったから。

 

今と違い、その頃のアキバは家電や(電気)パーツ店ばかりだったし、オーディオ専門店も随所にあって、各店をハシゴできる古雅楽館にとってはワンダーランド。最新の超高級海外アンプやスピーカーを試聴したり、当時まだモノにならなかったLEDランプ試作品を安価で手に入れたりと本当に楽しかった。

 

そんな中で「(旧)ヤマギワ電器インテリア館」は、海外の秀逸なインテリア製品ばかり取り揃えたセレクトショップで、有名なデザイナーの作品をタダで見られる美術館的存在だった。とりわけ照明器具は専門だけあって品揃えが豊富、『ルイス・ポールセン3』、『カステリオーニ4等々名だたるブランド商品が店内にひしめき合っていた。

 

その一角を占めていたのが、例の『タリアセン』シリーズである。種類は今ほど多くはなく、2~3点程だったろうか。大多数を占めるクールな北欧のデザインに較べて、温かみのある木調の有機的なスタイルは一際目につき、いつも溜息をつきながら拝んで帰るのが習わしだった。

 

 

 

【写真上左】『ルイス・ポールセン PH5』が懸るダイニングテーブル。【写真上右】コチラのテーブルは『カステリオーニ・アルコ』。動線を妨げない秀逸なデザインが良く分かる。

 

フランク・ロイド・ライトは極めてドラマティックな「人生山あり谷あり」を地で行ったひとで、40(歳)代スキャンダルによるスランプの時期、母から譲り受けたウィスコンシン州南西部、スプリング・グリーンの地に建築デザインのスタジオを建設し、『タリアセン』と名付けた5。スタジオや付帯の建物は年々拡充され、最終的に建築学校『タリアセン・フェローシップ』を設立する。

 

 

【写真上】スプリング・グリーンにある『タリアセン』にあるライトの自宅遠景。丘陵地帯の高低差にマッチした設計は凡俗の及ぶ所ではない。

 

付属施設の『ヒルサイド・ホーム・スクール』もそのひとつで1902年に竣工。1933年に体育館を劇場へ改装する際、併せて設計したペンダントは極めて独創的なデザインで木のブロックを組合せ、「直接光」と「間接光」を巧みに制御するという発想は、既に80年前完成の域に達していた。現在ですら(日本で)大概のオウチは天井に貼りついた蛍光灯(またはLED)のシーリングライトで煌々(こうこう)と部屋を照らすのが当たり前なのに・・・。

 

その後劇場は1952年火災で焼失し、再建するにあたりライト自ら手掛けた設計では、照明として旧劇場にあったペンダントのデザインコンセプトをより一層洗練させたフロアランプを開発した。『タリアセン(シリーズ)』の誕生である。ライトはこれをいたく気に入って、自宅やアトリエで使用していた写真が残っている。

 

『タリアセン』は内外から好評を博し、商品化のの要請が相次いだという。その答えは当時のアメリカでは当たり前の「マスプロ」ではなく、完全受注生産でオーナーの照明空間に寸法を合わせたカスタムメイであったそうな。つまり本当のセレブ御用達外、庶民には手の届かぬシロモノでありました

 

 

【写真上】同じくスプリング・グリーンの『タリアセン』スタジオ内部。中央に見えるのが#2.

 

ライトは1940年に自分の思想を継承し理念を後世に伝えるべくフランク・ロイド・ライト財団』を設立し、現在も財団は様々な活動を行っている。その一環としてライトがデザインした家具やテキスタイルを再現(=再発)する試みが1980年代に始まった。作品群のリプロダクションに当たっては世界中のメーカーを極秘裏に調査し、厳正かつ公正な審議を経て各ジャンル一社のみにライセンスを発行するという徹底ぶりである。

 

そして照明器具は我々にとって幸運なことにYAMAGIWAがライセンスを取得している。それも財団から復刻のお墨付きを得たのは、こちらからの売り込みではなく先方から打診があってのことだという。本来の照明器具輸入代理店の実績に加えて、それまで発表してきた自社オリジナルの商品に施された、様々な素材を組み合わせる技術と品質管理が高く評価されたとのことだ。

 

『タリアセン』を含むリプロダクションは1994年から販売開始、最初は5シリーズ12点だったのが現在では30点にまで増え、『タリアセン』シリーズも4バリエーションに拡大し、カラーも「ブラック・エディション」が新たに加わった。折しも今年(2017年)はライト生誕150周年にあたる。本国アメリカだけでなく、所縁(ゆかり)のある各箇所でも生誕記念イベントを開催しているが、YAMAGIWAも新たに「アニバーサリーモデル」5種類を発売した

 

 

【写真上】雑誌Casa BRUTUS 7月号の「デザイン狩人」にも「アニバーサリー・モデル」が紹介されております。

 

それにしても欲しいなあ『タリアセン』。代表的な#2は高さが2メートルを越すので無理としても、手頃なのは#3で75センチだから条件が整えば何とかなる。でも「カネがない」、「置き場がない」、「部屋に馴染まない」のないないづくし。またしても物欲に憑(と)りつかれて悶々とした日々を過ごす古雅楽館でありました。

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1.例えば第14週(7月3~8日放映)、宗勇叔父の凄絶(せいぜつ)な戦争体験を経て、何故「俺は笑って生きる」と決めた訳が語られる。

 

創業は大正12年(1923)で、『ヤマギワ電気(株)』として戦後業績を伸ばし、照明器具の本格的な取り扱いは昭和29年(1954)から。市場環境の変化で現在は店舗事業から撤退しているが、仙台市五橋にショールームを開設している(要予約)。商品はオンラインストアで購入可能。

 

3.Louis Poulsen デンマークの照明器具専門メーカーで建築家やデザイナーと協同して、80年以上に渡り「明かり」という観点からインテリア・リノベーションを提起してきた。発表される作品は常にその先を見据えたもので、いつの時代でも古さを感じさせず今も世界中で愛用されている。ポール・ヘニングセンがデザインしたペンダント、そのイニシャルから付けられた「PH5」は1958年発売以来ベストセラーを続けている「名作」。インテリア雑誌ではリビングのモデルルームに必ずと言って良い程紹介されている。 

 

  

 

昔買ったデザインの教科書 「20世紀 世界のデザイナー」にもポールセン【写真上左】とカステリオーニ【写真上右】はきっちり紹介されている。

 

4.Achille Castiglioni (=アッキーレ・カステリオーニ)。 兄のピエール・ジャコモと共に現代インテリアデザインのパイオニア的存在として、イタリアを代表するマエストロ。1962年に発表されたフロアランプ『アルコ』は照明デザインの傑作のひとつで、現在に至るもリビング照明プランに取り上げられるほど世界中で人気が高い。

 

5.ライトの祖父がケルト社会の祭司『ドルイド』であったことから、ケルトの地ウエールズで活動した吟遊詩人の名を付けたのが由来。ウエールズ語では『タリエシン(=Taliesin)』の発音がより近い。

 

6.ここまで書けば島谷君の部屋に『タリアセン』があることに矛盾を感じることだろう。実際当時の日本で、本当にオーダーメイドの作品を発注・入手出来たのかは詳(つまび)らかでない。

 

7.本家アメリカではニューヨーク近代美術館(MoMA)で大規模な特別展を開催(10月1日まで)。日本ではライトが設計した帝国ホテル東京本館メインロビー「インペリアル・タイムズ」で記念展示を実施中。且つホテル内の「オールドインペリアルバー」では記念カクテル『THE TIME』を楽しむことが出来る。

 

8.ペンダント、シーリングライト、ウオールライト2種、テーブルランプでテーブルランプは3バリエーション。ウオールライトの一つは『タリアセン』のデザインをモチーフにしたもの。

 

9.ネットオークションではジェネリックの『タリアセン』がかなり安い価格で取引されているが、古雅楽館としては品質の面から、やはり『血統書』のついた正規の復刻版に拘(こだわ)りたい。

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【トップ写真】引き続き、古雅楽館の庭。梅雨明けに撮影したものの翌日から一か月以上雨にたたられ、今は見る影もない。中央は『ゲラニウム・ロザンネイ』、右は『ラムズイヤー』。

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