【古雅楽館】 ムール貝

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ベネルックス三国。ルクセンブルクは行く機会が無かったが、オランダ・ベルギーはよく訪れた。全て業務視察や研修の添乗ばかりだったから、両国の首都、アムステルダムやブリュッセルは前後泊だけになるケースが多く、『グランプラス』もそそくさと済ませてしまうくらいの慌ただしさだった。訪問先とアポイントの合間に行う観光だから仕方がないが、その代わり通常の観光では訪れない街や地方へ行けたのは役得であった。

 

オランダは古雅楽館『エル・シド』で触れたスケベニンゲンの海岸にあるレストランで昼食を取ったし、『クレラー・ミュラー美術館』を訪れた際は道すがら、映画『遠すぎた橋』のタイトルになったアーネムの『ジョン・フロスト橋』を渡った。ベルギーでは街全体が宝石のように美しいブルージュに四泊したから世界遺産を隈なく見て回ることが出来て、シンボルである『鐘楼』のてっぺんにも登り、マルクト広場では何ともなしに長い時間ベンチに居座って『カリヨン』の音色を聴きながら移ろいゆくフランドルの夕空を眺めていた。

 

例によって「食べ物」はと言うとオランダは実直な料理が多く、古雅楽館にとって印象が乏しい。勿論『フォーレンダム10』の屋台で立ち食いした『ハーリング11』の味も捨てがたいけど、やはり美食の国ベルギー料理は食いしん坊には堪えられない。何しろ『ジビエ12』に関しては世界に名高く、「アルデンヌの森13」で獲れた鹿肉のローストを生れてはじめて食した時の感激は今でも記憶に残っている。

 

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【写真上】長年愛用のジュラルミンケースの横にはブルージュのワッペン(左上)。下左から二番目はブルージュのすぐ近くにあるビーチリゾートの「オステンド」、右端はベルギー南部ワロン地方の中心リエージュの市章で、行ってきた証拠

 

ベルギーの「食」はフランス北部の地方料理と共通色があり、食材は魚介類よりは肉類が主体でバターや生クリームをふんだんに使ったグラタンや煮込み料理が多く、こってりした「重厚な味つけ」が特長だ。しかもフライドポテトかマッシュポテトが「これでもか」とばかり必ず付くので、淡泊な味に慣れた日本人には毎日出されるといささか疲れる。

 

その中でベルギー料理の名物とも言える、『ムール貝の白ワイン蒸し』は日本人好みの味付けなので、旅行会社パッケージツアーの謳(うた)い文句にもよく見られる。通常は一人前1kgでキャセロールに盛られて出てきた見た目のボリュームはかなりのもの。食べ慣れない日本人旅行者はそれだけで引いてしまうが、貝殻の重さも含まれるので食べてしまえばどうということはない(と思う)。

 

ベルギー料理を家庭で再現するとなると、食材として「肉類」の調達は結構厄介だ。「鹿」・「兎」・「猪」等はネット通販でも買えるけど、普段の家庭料理にわざわざ注文するとなると、値段も含め「うーん」と言わざるを得ない。それに無理して買ったところで、調理を奥さんに丸投したら激怒されるに決まっている。身近なところでは牛肉のビール煮『カルボナード・フラマンド14』あたりが無難だろうが、ブロック肉(それも1kg以上)が前提だしベルギービールも用意せねばならぬ。

 

ということで、ヤルなら安くて調理もシンプルな『ムール貝の白ワイン蒸し』がベスト。まあ「ムール貝をどこで買うんだ」という声も聞こえてきそうだが・・・。古雅楽館ごひいきの魚屋さんはほぼ年中、石巻のムール貝が店頭に並ぶのでとても重宝する。しかも安い!今回は1kg300円で皆大粒だから得した気分大であります。「大粒のムール貝はそれだけワタが大きいので生臭いから小ぶりのものを」というブログもあるが、獲ってから半日しか経っていない地元産は「臭み」は全くありません

 

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【写真上左】ご覧の通り、約1キロ。これが現地では一人前の量であります。【写真上右】貝類は皆そうだが、水から煮るのが常道。玉葱の「荒みじん切り」と大まかに切ったセロリを炒めずに加え、仕上げにEVオリーブオイルを垂らすのも一つのやり方。

 

作り方は至って簡単。でも現地もそうだけど、ムール貝の他に何を加えるか(あるいは加えないか)が作り手により異なる。基本は大蒜(にんにく)とハーブ・玉葱なのだがムール貝特有の『アロマ』が損なわれるからと大蒜とハーブは入れないレシピもある。但しセロリだけは絶対に欠かせない。ベルギーではムール貝専用のキャセロールを売っているが、そこまで凝らなくても、サイズが手頃な深鍋を用意する。バター(又はオリーブオイル)で刻んだ野菜をさっと炒め、掃除したムール貝を絡めるようにして入れた後「白ワイン」と「水」を注ぎ足して、ぴったりしたサイズの蓋をして2分位蒸し煮するだけ。貝類は皆そうだが火を通し過ぎると身が固くなり、おいしさが半減するので余熱で仕上げる。最後に(好みで)パセリのみじん切りやミックスハーブを散らす。

 

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【写真上左】切り分けたジャガイモはしばらく水に浸す。シャキっと仕上げるのに余計な「でん粉」を除くためだが、カラードポテトには効き目がなさそう。【写真上右】二度揚げしてもこの通り、油のキレ悪し(残念)。

 

付け合わせは定番の「ジャガイモのフリット」で、本来は『男爵』が一番だが貰い物の『シャドークイーン15』と『ノーザンルビー16』が残っていたので、お遊び半分に使用。二度揚げしてもちょっと油の切れは良くなかったけど、色の取り合わせとしてはまあまあ。何より古雅楽館のような年寄りに眼病予防効果のある『アントシアニン17』を多量に含んでいるのが良。

 

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【写真上左】出来上がり。レストランでは見た目を良くするため野菜を取り除くが、風味も楽しむのでそのままとする。【写真上右】アルコールは当然ながらベルギービール以外考えられない。とは言え、家飲みでは何でもアリだ。

 

それにしても海岸線がそれ程長い訳ではないベルギーで、とてつもない量のムール貝が消費されるのはどこで養殖しているのか?実態は隣国オランダの国境を接する『ゼーラント州18』産が殆どである。何しろ年間にして約3,400万トンものムール貝がベルギーに出荷されるというから、いかにベルギー人が「ムール喰らい」か分かろうというものだ。ヨーロッパではフィンランドも含め海沿いの地方ではどこでもムール貝を売っているし、スペイン料理やイタリア料理でもムール貝を使ったレシピは日本人にもなじみが深い。ただ消費量だけはやはりベルギーである。

 

日本でも近来ムール貝の養殖は盛んになっているが、本来は外来種で正式には『ムラサキイガイ』といい、大正時代に(恐らく地中海から欧州航路の)船底へばりついて日本にやって来た。その後急速に全国中に広がり、今では在来種を駆逐(くちく)する勢いにまでなっている。繁殖力が旺盛なので、火力発電所の冷却水取水口や牡蠣(かき)の養殖棚に集団で貼りつくため、現場では邪魔者扱いされている。

 

在来種の『イガイ』はムール貝に較べて非常に大きく、オトナの「手のひら」位ある。産地は北海道から九州にかけて日本海沿岸や瀬戸内海にも棲息し、各地の漁港で水揚げされるが、地元での消費が大半で一般市場への入荷量が少なく仙台でも殆ど見かけない。いつか手に入れたら改めてこの欄で報告します。

家庭料理として普及するまでには至っていないムール貝であるが、もしスーパーで見かけたら、別にイタリアンにこだわらず味噌汁の「具」でも良い。を占めたら「ワイン蒸し」に挑戦するのはその後からでも遅くはありません。

 

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【写真上左】別の折にはシェリー風味で味付け。今回は『オズボーン』の辛口『フィノ』を使用。【写真上右】鍋も肉厚のアルミ深鍋に替えてみたらこちらの方が見栄えがする。

 

最後にムール貝にまつわる古雅楽館の個人的体験をひとつ。小学校に入る前、石巻に住んでいた父方のおじいさんの家へ預けられたことがある。全国に名立たる漁港だけにご飯のおかずは毎日「海もの」。刺身や焼き魚は普通、ワンランク上の「ホヤ」や「イカの塩辛」、「鮟肝(あんきも)」も無理矢理食べたが、更に上級の三大激マズ料理はギブアップ。子供には超強烈な『(タラやサケの)白子の澄し汁』、『ナマコの酢の物』、そして『シュウリケッコ19 の煮付』、それもみな丼一杯(!) 

 

大体にして未就学児童が食べる「おかず」ではなかろうに・・・。古雅楽館の魚好きはこの時を起源とするのは間違いないとしても、半ばトラウマになりそうで懐かしい思い出でありました。 

 

【写真下】スープはかなりいいダシが効いているので、パスタに利用するのも一法。調理時間のタイミング上、茹で上がりの短い『カペッリーニ』を使用。バリカタのアルデンテに仕上げないとスープを吸い過ぎてフニャフニャになってしまう。

 

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【写真上】古雅楽館はムール貝も弁当に持って行くのだ。「深川丼」ならぬ『ムール丼』。スープが飯に染み込んで激ウマ。付け合せは「菊芋」の炒め煮とブロッコリー。

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1.Grand-Place ベルギーのブリュッセル中心部にある大広場。『市庁舎』、『王の家』、『ギルドハウス』等、15~17世紀の建物に囲まれ、「世界で最も美しい広場のひとつ」とされる。世界文化遺産に登録され、ベルギー(ブリュッセル)観光では必見の場所。

 

2.Scheveningen オランダ語では「スヘフェニンゲン」。北海に面したリゾート地で夏には海水浴客で賑わい、洒落たホテルやレストランも多い。

 

3.オランダ中央部、「デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園」内にあり、実業家クレラーミューラー夫妻が収集したコレクションを基に1938年開設された。特にゴッホの作品が充実しており、質・量共にアムステルダムにある『ゴッホ美術館』と双璧をなす。『アルルの跳ね橋』、『夜のカフェテラス』などの有名な作品が多数展示されている。

 

4.原題(A Bridge Too Far) 1977年公開の戦争映画。第二次世界大戦後期、連合軍により実施された『マーケット・ガーデン作戦』を題材にしたもの。空挺部隊(くうていぶたい)を中心にナチスドイツ占領下のオランダを奪還(だっかん)し、戦争の終結を早めるために実施されたが、連合軍にしては未熟で杜撰(ずさん)な計画、不手際が重なり想定外の状況が頻発したのにも拘らず作戦を強行しため、夥(おびただ)しい戦死者・捕虜を出して目的を達せず大失敗に終わった。

 

5. 『マーケット・ガーデン作戦』における激戦地の一つ「アルンヘム(またはアーネム)」の南を流れるライン川に架かる鉄橋の名。作戦後、連合軍の爆撃で破壊されるも、終戦後速やかに架けなおされた。原形のままで復元し、名称は橋のたもとで奮戦した英国第一空挺師団第二大隊長、ジョン・フロスト中佐に因(ちな)む。

 

6.ベルギー北西部、ウエスト=フランデレン州の州都。レース産業や造船業が盛んだが、一般には観光都市として有名。三つの世界遺産登録を持ち、「天井のない美術館」、「北のヴェネツィア」の異称がある。オランダ・ベルギーのパッケージツアーでは旅程上絶対外すことのできない観光地。見どころが多いのと旅行客の人気もあり、二泊するのが普通。

 

7.世界遺産として『ベルギーとフランスの鐘楼群』のひとつ。『マルクト広場』に面して建つ、ブルージュのシンボル的存在。13世紀に建設が始まり、完成まで二世紀を必要とした。高さ83m、内部は366段の螺旋階段があって鐘楼まで上ることができる。鐘楼から眺めるブルージュの街並は息を呑むほどの素晴らしさだ。

 

8.ブルージュの中心にあり、観光の起点。周囲を『鐘楼』や『ギルドハウス』、『ウエスト=フランデレン州庁舎』が取り囲み、レストランやカフェテラスが並び華やかな雰囲気。夜遅くまで観光客の絶えることが無い。

 

9.Carillon 複数の「鐘」を組み合わせて旋律を演奏できる仕組みの楽器。ベルギー・フランドル地方が発祥の地で、最低でも23の「鐘」を必要とする。本来は専門の奏者『カリヨネア』が演奏するため、ベルギーとオランダには専門の「カリヨン学校」があり、若手奏者のレベルアップに努めている。『鐘楼』の「鐘」は大小合わせて47個あり、全部の「鐘」を合計すると27トンになるという。15分毎に奏でられる優しくも力強い、複雑で美しい音色はブルージュを訪れるすべての人々を魅了する。

 

10.Volendam チーズで有名な「エダム」の隣町。アイセル湖に面し古くから漁港として有名だったが、アムステルダムからも手軽に行けることから、最近はむしろ観光地として賑わっている。こじんまりしたカラフルな街並みと民族衣装に身を包んだ土産店の売り子さんがメルヘンチックな気分を盛り上げる。

 

11.Haring 英語で言うへリング<Herring=鰊(ニシン)>。 三枚に下ろした生ニシンをトマトや玉葱と一緒にマリネし尻尾を持ってぶら下げ半身毎、頭から一気食いするのが通。早い話が「鰊の酢〆」。

 

12.Gibier フランス料理用語 狩猟で得た天然の野生鳥獣肉、或いはそれを使用した料理。正確には狩猟者が捕獲した完全に野生の鳥獣であるが、時の運で安定した供給が保証されないのと価格が一定しないため、生捕りして餌付けしたもの(デミ ソバージュ = Demi sauvage)も『ジビエ』として認められている。日本では「鹿」と「猪」が最もポピュラーで、仙台にも『ジビエ』を提供する店が何軒かある。

 

13.ベルギー南東からルクセンブルグ、フランスにまたがる丘陵地帯で、ローマ時代から交通と軍事上の要衝(ようしょう)であった。第二次世界大戦末期、この地で連合軍とドイツ軍で行われた通称『バルジの戦い』でも有名。全体が森林に包まれ、清流が多い風光明媚な観光地として人気があり「古城巡り」を楽しむ旅行者も多い。

 

14.Carbonade flamande 牛肉をビールで煮込んだベルギーの「国民食」。本文にモ書いたようにどのレシピでも牛肉(バラや腿肉)は1kg必要とあり、黒(又はアンバー)ビールが必須。炒めた牛肉と玉葱にローリエなどのスパイスを加え、ビールで3時間位煮込む。これも料理人により、マスタードやバルサミコを足すなど様々な流儀がある。

 

15.北海道農業研究センターで育種された「紫系じゃがいも」、皮は黒紫色、肉は鮮やかな紫。既存の紫系に比べて『アントシアニン』は3倍以上含まれている。種類は異なるが沖縄の「紅芋」と似ているので、同じような食材として利用できる(と思う)。

 

16.これも北海道生まれの「赤系じゃがいも」で食感はメークイーンに近い。全体がピンクで加熱しても色が褪(あ)せないから「ポテサラ」にしてもきれい。

 

17.抗酸化作用の働きを持つポリフェノールの一種で500種類以上のバリエーションがある天然色素。紫外線による障害を防ぐため高等植物はアントシアニンを作り、その色素で自己防衛を果たしている。ヒトに対する薬理作用は完全に解明されていないとされるが、古くから眼の機能改善に効くと考えられている(難解なので理由は省略)。

 

18.Zeeland 「海の土地」の意。北海に面し、州の3/4は海面下で大規模なムール貝の養殖が行われており、現地のレストランでは「生食」も可能。なおオセアニアの島国『ニュージーランド』の名称は、ヨーロッパ人として初めて列島を発見した探検家『アベル・タスマン』がオランダ人だったのが発端である。後年オランダ地理学者により、「新しい ゼーランド = Nova Zeeland」と名付けられ、百年後英国の探検家『ジェームズ・クック』が同地を訪れた際、英訳して『New Zealand』と記録してから呼び名が定着した。

 

19.在来種も含めてムール貝を『シュウリガイ』と呼ぶ地方が多い。「ケッコ」は宮城県沿岸ハマコトバで「貝」のこと。当時の料理だから、酒・醤油・砂糖で煮詰めた「佃煮風」のもの。

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【トップ写真】或る晩の古雅楽館ディナー、前菜として誂えた『ムール貝のワイン蒸し』。テーブルセッティングの合間に撮影したので、不揃いなのはご勘弁を。メインディッシュはヒミツ。

 

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