【古雅楽館】 一斗枡

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『メートル法』が十進法による統一された『単位系』として18世紀末フランスで制定され、19世紀後半に世界に広まるまで、各地方・国ではモノを計る様々な種類の「単位」があった。それらは生活や産業に関わるため必然的に生み出されたもので、「モノサシ」は身近なもの、ヒトの体(動作)や道具から発生したものが多い。長さの単位『ヤード(≒0.9メートル)』の起源は「アングロサクソン人の平均ウエストサイズが1ヤードでアル」とのことで、『フィート(≒30cm)』は文字通り「足(=フット foot)の長さ」に由来する。

 

日本では『千と千尋の神隠し』の『尋(ひろ)』。本来は大人が両手一杯広げた長さで、紐を両手に持つ動作を何回か行えば『尋』を単位とした長さを計ることが出来る。船乗りが錘(おもり)をつけたロープを垂らして水深を計る時などに使われた。通常は「1尋=6尺(≒1.8m)」とされているから『千尋』の深さは1,800mの深海だ。

 

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【写真上】2013年6月の『古雅楽館 座繰り』で「運よく入手出来た暁にはいずれ改めて報告しようと思う。」と書いた『糸車』だが、新品同様の姿で去年やっとおいでになった。ホイールは「竹」、ベースや車軸は「木」で、紐と極小の「釘」で結合されている。真円に近い形状、ぴたりと決まった対角線上の「スポーク」は、「竹製」とは思えないほど素晴らしい。世界に誇る「made in Japan」のルーツはこんな所にも表れていて、嬉(うれ)しくなる。

 

生活に密着した色々な単位が長年に渡って使われてきた以上、日本も含め各国が無機質な『メートル法』を国の基準値として採用しても庶民への普及には抵抗があった。発祥の地フランスですら1837年にメートル法以外の単位の使用を禁止する法律により強制的に施行された位である。日本では1891年(明治24年)施行当初『尺貫法(しゃっかんほう)』と併用の形をとっていたが、1921年(大正10年)法律の改正で『尺貫法』を廃したもののやはり抵抗は根強く、完全実施までに70年以上かかっている。

 

現代でも英国やカナダでは『メートル法』と『ヤード・ポンド法』が併存して道路標識の速度表示『マイル・ヤード・フィート』は公式の単位であるし、牛乳パックやビールの容量は『パイント』が許容されている。そして世界で唯一、未だ頑なに『ヤード・ポンド法』を守っているのがアメリカ。ハイテク最先端の国が『メートル法』に消極的だとは信じ難い話である

 

『ヤード・ポンド法』や『尺貫法』は便利な一面があったものの、ファジーな部分も多く換算がややこしい。1936年中国の公式調査で『一升』は500mLから18Lまで32種類もあったという。上記英国や米国の道路標識にある速度表示・距離・標高の値も相互の関連性がないため、比率は1マイル=1,760ヤード=5,280フィートで、よく覚えられるなあと感心してしまう。要は馴れなんでしょうけけど・・・。

 

それに『ヤード・ポンド法』でも英国と米国では基準値が微妙に値が違う。液量単位『英国ガロン(≒4.55L)』は、米国(USガロン)の1.201倍である。つまり英国の方が量が多い。具体的にパブ(バー)に行って「I’ll have a pint of lagar,please (ラガーを1パイントください)」とオーダーしたとしよう。ここで「大ジョッキ」1パイント=1/8ガロンだから、出てくるラガーは英国だと568mL、米国は473mLなので、(どちらが適量かは差し置いて)約100mLの差があることになる

 

ついでに書くと、日本の牛乳パックは1Lが標準サイズだが、沖縄だけは違っていて946mLである。これは沖縄本土復帰以前に牛乳工場を建設した際、関連機材は統治下の米国から導入したことにより、サイズが『ヤード・ポンド法』だったためである。復帰後、機械を入れ替える訳にも行かず、出来るだけ1Lに近い容量にしようという事で合わせたのが『クオーターガロン(1/4ガロン=2パイント=946mL)』という経緯があるのだ

 

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【写真上】「織物繋がり」でいつもはショーケースの奥に鎮座(ちんざ)している織機(しょっき)部品の『筬(おさ)』。15年以上も前タイのチェンマイに行った時に、古道具屋の片隅に埃(ほこり)をかぶって立てかけてあったのを手に入れた。布織物の『筬』は竹が使われてかなり目(ハ=羽 という)が細かいのに対して、コチラは木製、しかも一本の無垢材である。「むしろ」編み用は雑というか大まかでもっと小型だから、「イグサ」のようなマットを織るのに使われたものか。因みに『筬』とは織物を織るときに「縦糸」を通す機材で刻まれたスリット(=羽)に1~数本の縦糸を通し、これで織物の縦糸密度が決定される。

 

容量の基準単位は『尺貫法』だと『升』である。これは両手で掬(すく)った(穀物の)量に由来するが古代中国の「一升」は今の「一合」程度、180~200mLだったそうな。これが年を経るにしたがって量が大きくなり、現在は10倍にまでなった。日本では歴史が変わる度、当時の為政者により新しい『升』の単位が定められ、江戸幕府は年貢米の管理上、『一升』を計る容器の寸法を厳格に統制したので、これが近世日本の基準値となった。基準容器(測定器)は『木偏』をつけて『枡(しょう)』と読むが、容量を増やす意味で「ます」とも訓ずる。

 

なお『升』は『枡』のサイズにより決まるのでその逆はない。歴代の領主が年貢を取り立てるのに都合がよい様、『枡』を大きくしていったので単位量が増えていったのはこのせいらしい。

 

江戸幕府による『一升枡』のサイズは縦横49分、深さ27分とされ、明治になって『メートル法』が導入された時の換算は、一尺=100分=10/33mと定められた。よって『一升』は『メートル法』に置き換えると、1分=(10/33)X(1/100)mだから

 

1分=1/(33X10)m

 

一升=7X7X3/(33x10)m=64,827/35,937,000m≒0.00180390683m≒1.8L

 

である。

 

『一升』の1/10は『合』で米「1合」は日本でに成人一食分の分量とされた。『一升』の10倍は『一斗』、更にその10倍が『一石』で成人が一日で消費する米の量を「三合」とすれば『一石』は成人が1年間に消費する米の量(333日分)に近く、人口に対する米の必要量の目安とされた。よって『伊達62万石』は単純に60万人分を養える石高があったと言えるし、江戸の人口は150万人前後とされるから、年間150万石以上の米が消費されたと推定出来る。

 

『計量法』の施行により現在では『尺貫法』は使用できないが、長年暮らしの中で使われた単位だけにその名残りは今でもそこかしこに見ることが出来る。日本酒や業務用の醤油、食酢などの大瓶は『一升瓶』で、お米の計量カップも前述した通り『一合』だ。この季節、どこの家庭にもある灯油用のポリタンクは「一斗(18L)缶」が普通である。

 

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【写真上左】「一斗桝」外観。使われる材質により色の濃淡に差が生ずるが、こちらはかなり明るい方。上下の「木口」と「側板」四か所は鉄板で補強、把手(とって)は「側板」と一緒で「無垢材(むくざい)」からの削り出し、「頑丈(がんじょう)」そのもの。【写真上右】刻印。「大垣」とあるからには岐阜県産?製造販売元の「屋号」は『井川』か?

 

二年ほど前、山形県鶴岡市にある馴染みの骨董店から『一斗(いっとます)』を手に入れた。穀物、特に「米」を計量する時に使用したもので、『メートル法』施行以前は日本国中あらゆる所にあった器だから、それ程珍しいものではない。ネットオークションを覗(のぞ)いても常時20点位は出品されている。この時入手した物は使い古されてはいるけれど左程汚れもなく、しっかりした造りでいながらオークションプライスよりかなり安かったのはラッキーだった。

 

『尺貫法』の使用を法律上厳格に禁止した1951年(昭和26年)施行の『計量法』により1958年(昭和33年)末をもって商取引は禁止されたから、入手した製品は昭和30年以前に作られたのは間違いない。ただ刻印は「右横書き」なので一見戦前かと勘違いしそうだが、「左横書き」が普及され出した昭和23年頃でも民間では「右横書き」が使われていた。大体にして刻印する『焼きゴテ』は壊れない限り半永久的なものだから、頻繁に作り変えることはない。

 

古雅楽館流に解釈すると「枡」は戦後作られ、戦前から使用している『焼きゴテ』で刻印したものと思われる。多分昭和20年代後期のものか。更に『尺貫法』禁止後も商売とは関係のない世界(或いはモグリ)で、しばらくは穀物の計量や貯蔵に使われていたのだろう。いずれにしても全国中の「桶屋」さんが作ったであろう「製品」の出来は今見ても十分通用するだけの職人技が光り、見事な出来栄えだ。 

 

御用済みになった『一斗枡』、現在では「和」のテイストを演出するインテリア小物として「鉢カバー」に再利用されることが多い。かたや古雅楽館の購入目的は『生活骨董』としてのコレクションを兼ねた「ゴミ箱カバー(ケース)」。

 

プラスチック製は安いし簡単に清掃出来るので清潔を保持するのが容易だが、茶系が主体のリビングルームで白や原色は余りにも違和感がありすぎる。ラタンにしたりファイバー製にしたりと何度か替えたものの、どれもイマイチしっくりこなかった。

 

悩んだ挙句、やっとひらめいたのが「鉢カバー」のアイデア流用をすればということ。「プラ箱」を「枡」の中に入れただけだが、トップ写真のように見た目、部屋の印象は全然違う。実に単純極まりない解決策だったが、ここまで来るのが長かった。やはり自分自身へ常に課題を挙げて、ソリューションを考えないと「アタマが固くなる」という教訓なのでありました。

 

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1.1メートルは地球の北極点から赤道までの『子午線弧(しごせんこ)』の長さ(子午線弧長)の「一千万分の一」。1リットルは一辺が10cmの『立方体』の体積(=0.001m)である。

 

2.今夏「ポケGO」がアメリカで先行配信された際、距離の表示が世界標準の『メートル法』であることから、アメリカ人のユーザーが初めて「メートル」が世界では一般的な単位であるのを知った。また距離がピンと来ないため、ネット上で「キロ⇔マイル」の変換検索に大量のアクセスが集中するという社会現象が発生している。

 

3.英国では1パイントのビールの量は法律で定められているため、どこでも1パイントやハーフパイントグラスを使用して、正確度の保証を行っている。グラスには嘗(かつ)て「王冠」と容量を認定した当局の承認ナンバーが記されてたが、近年はEU各国と同じく『CEマーク』(商品がEUの基準を満たす適合マーク)と「PINT」の文字を入れることが義務付けられている。然し(!)来年EU脱退の暁にはどうなるのだろうか。

 

【写真下】古雅楽館にも「1パイントグラス」がある(中央)。デンマークのビールメーカー、『カールスバーグ』でサントリーが販売している(ロング缶がアサヒなのはご勘弁ください)。現役時代、行きつけのショットバーからSP(販促)用として頂戴した。当然『英国ガロン』だからロング缶がまるまる注げる。左はごくオーソドックスな「ハーフパイントグラス」。

 

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4.山城支店長、ネタを奪って済みません。

 

5.江戸時代の『仙台藩』の人口は60~80万人の間で増減した。また実際の石高は表高より大きく100万石を越えたが、20~25万石は江戸に送られ、藩の重要な財源になった。

 

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【トップ写真】古雅楽館リビングルームの一隅。手前左に『一斗枡』。誰も弾かなくなったピアノと昭和40年代の木製ショーケース。中には8ミリ映写機や真空管、眼科の測定器具、バヌアツの「土面」など妖しい品物ばかり。ケースの上には「糸車」を中心に、沖縄「やちむん」や東南アジアとパプア・ニューギニアのエスニック骨董を並べた。個々の紹介はいずれ・・・。

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