【古雅楽館】 めかぶ

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4年前の忌まわしい出来事は東北太平洋沿岸の尊い人命や漁業関連施設の全てを根こそぎ奪ってしまった。漁船や漁港の建物、養殖設備も一切海に持って行かれて犠牲になった方々の冥福を祈ると共に、特産の『牡蠣』や『ホヤ』もこれから食べられなくなるのかと諦(あきら)めにも似た気持ちだった。事実、震災の年は三陸沿岸の養殖物は馴染の魚屋で一切出回らなかった。青森産の『天然物』と根室産の『アカホヤ』を少量、手に入れただけである。それもびっくりするような値段で・・・。

去年の夏、三陸産の養殖『ホヤ』が震災前と変わらない値段で出回った時はうれしかった。わずか三年で復活するとは養殖業の皆さんがどれだけ苦労したのか、部外者の私には地元のニュース等で断片的にしか知るすべがなかったが、血の滲(にじ)むような努力があったことだけは想像できる。今の私に復興支援の手伝はオフィスワークでしか出来ないので、やれることは一生懸命に育て上げた海の幸を感謝を込めてせっせと買うこと、美味しく食べることしかない。という事で地元産の海産物が店頭に並んだ時は、どんな種類であれ必ず買って家族と一緒に食べることにしている。

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【写真上左】フノリ、地元牡鹿半島産。【写真上右】マツモ、脚注にもあるように3月下旬までは三陸産のものが手に入るが、その後は北海道に代る。4月に買った函館産はこれが今年最後の「生」。

他に三陸物として震災前並に復活したものとしては寒い季節の『牡蠣』。春の足音が近づくにつれ『マツモ』や『フノリ』といった海藻類の新物(生)が出回ってくる。そして『めかぶ』。

『めかぶ』とは何ぞや。端的に言うとワカメの根本部分で『胞子嚢(ほうしのう)』を作る「ひだひだの部位」である。春の終わり頃から『めかぶ』の表面に『胞子嚢(ほうしのう)』が現れ『遊走子(ゆうそうし=胞子)』が泳ぎだす。『遊走子』はやがて岩に付着して糸状の芽を出し、秋には卵子と精子が出来て受精、幼体に育ち翌年春には1.5~2m位に生長する。三陸の養殖ワカメは初夏に『めかぶ』を短時間陰干しにした後、14~20℃の海水が入った桶に入れて『遊走子』を放出させ「採苗器(種糸)」に付着させる。この「種糸」を海中にに垂らして秋に発芽するまで保苗管理し、幼体が数㎝に育った11月に「種糸」を一旦引き揚げて数十センチサイズに切り取り、太いロープ(親縄)に挟み込んで海中に戻す。親縄は長さが100m以上もあり、沖合にある両端が海底に固定された『ブイ』に繋がれ水深2m位の海中で養成を行う。収穫するまでは陸上の野菜と同じく品質を高めるために『間引き』も必要、しかも1月に寒風吹き晒しの海上で行う作業だからその苦労は並大抵でない。その頃からワカメはどんどん成長し、一か月に50㎝も伸びる。

収穫は2月上旬から始まり4月まで続く。刈り取ったワカメは船が港に戻るとすぐ選別されて釜茹でにし、冷却した後に塩もみと裁断、芯抜きを行い『塩蔵わかめ』となる。一連の作業で余ったのが根っこの『めかぶ』と芯の『茎わかめ』だ。付着物がついたままでゴワゴワした茶色の『めかぶ』に対し『茎わかめ』が小奇麗(こぎれい)で緑色をしているのは後者が釜茹で後だからである。

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【写真上左】味噌汁にマツモをトッピング。事前に茹でたりする必要もなく、盛り付け直前に鍋へ投入すると熱で緑変する。具は他に豆腐と切干大根、針ねぎ(繊維に沿って「白髪ねぎ」より多少太目に切ったねぎ)。【写真上右】調理前のめかぶ原形。初めての方はどこから包丁を入れたらいいのかまごつくだろうが意外と簡単(本文参照)。

一昔前『めかぶ』は廃棄されるか、せいぜい養殖に携わる方々の家庭で食事に供される程度であった。近時(きんじ)仙台市内に限ってみても、どこのスーパーでさえ店頭に並ぶようになったのは地元ゆえの安くて新鮮な海産物で、しかも栄養に富んだ健康食品ということが浸透したからではないだろうか。『めかぶ』の主な効用を以下列記してみると・・・

①100gあたり11kcalと極めて低カロリーであり太りにくい食材であること。また成分の炭水化物は大部分が食物繊維(『フコイダン』、『アルギン酸』で野菜に較べ15倍もの量があるため少量でも便秘改善やデトックス効果を期待できる。

②ヌルネバ成分の『フコダイン』には強力な抗癌作用があり、癌細胞のみを自然消滅させ、免疫力を高める力を持つ。

フコイダン』はコレステロール抑制効果があり、同じく『めかぶ』に含まれるEPAは血液中の中性脂肪濃度を低下させ且つ血管に悪玉コレステロールが蓄積するのを妨げるため、併せて『動脈硬化』や『脳梗塞』等の循環器系病気になりにくくなる。

④ピロリ菌に対する胃壁防御作用と修復作用をもつ。このことから胃潰瘍の予防に効果があるとされる。

⑤『フコイダン』、『アルギン酸』は食道粘膜を保護する作用があるため『逆流性食道炎』を改善する働きがある。

⑥病原性大腸菌『O-157』に対して殺菌効果を持つ。

⑦『フコイダン』、『アルギン酸』は血液中の硫化水素やアンモニアを除去する作用があり、結果的に体臭・口臭を和らげることになる。

『めかぶ』を含め海藻類に多く含まれている『沃素(ようそ)』は体細胞を維持・促進に必要な甲状腺ホルモンの重要な構成成分で、心身共に活性化させてくれる働きを持つ。

他にも歯周病予防や肥満防止等、謳(うた)い文句があるが、この辺で止めておいて肝心の料理である。パック入りの「刻みめかぶ」は手軽だが、『生めかぶ』なら新鮮、且つ自分好みの味付けが出来るし調理手順も簡単この上ない。

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【写真上左】耳と茎を茹で上げた状態、茹で過ぎは禁物。【写真上右】これから切り刻んで行く。滑り止めと叩く音が響かない様、まな板の下に布巾を敷く。

①『耳』と呼ばれるビラビラの部分を「茎」から切離し、ざっと水で洗って汚れをとる。「茎」は別にとっておく(後述)。

②沸騰したお湯にさっと潜ら(くぐら)せるとすぐ緑色に変わるので、冷水に浸()ける。

③適量を「まな板」に乗せ切り刻むが、古雅楽館では普通の包丁やフードプロッセッサー代わりにチョッパーを使う。普段は鶏ガラスープ作りの下拵(ごしら)えがメインのチョッパーだが、その重みを利用して叩けるから左手を使わないので包丁が滑ってケガをする心配もない。「まな板」上で切り返したり、刻みあげた『めかぶ』を別容器に移す時も腹を使うと便利だ。まあ、たまたま我が家にチョッパーがあったからであって「絶対必要」と決めつけるものでもないが・・・。また手順は人により違いがあって、最初に刻んでから熱湯に入れる方法もある。ただこれだと冷やす時に折角のヌルヌル成分(フコダイン)が、丸ごと茹でるより多くが水で流されてしまうので「どうかな」という感じ。

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【写真上左】普通の包丁で大まかに切った後がチョッパーの出番。【写真上右】端から叩いていくが、チョッパーの腹で返しながら細かく均一になる様まんべんなく切り刻む。【写真下左】ほぼ仕上がった状態。【写真下右】出来上がったら同じくチョッパーの腹を使って保存容器に移す。冷蔵庫に入れても持つのは2~3日なのでとっとと喰らうべし。

出来上がった『めかぶ』の味付けはお好み次第。基本は「出汁醤油」か「ポン酢」に「刻み葱」や「生姜」を加え、ご飯にかけて食べるが、味噌汁やつゆうどん(orそば)にもよろしい。更にヌルネバトモダチの「納豆」、「オクラ」、「長芋」を混ぜると一層効果的。大まかに切ってサラダや炒め物、炒飯(チャーハン)の具にするのも一味違った仕上がりだ。生産地に倣(なら)って「めかぶのしゃぶしゃぶ」という手もある。かく言うワタクシは「メレンゲ」を作るつもりで「納豆」と一緒に泡立つくらいかき混ぜ、「丼(どんぶり)ご飯」にぶっかけて食べる粗野というか豪快なやり方が好きだ。

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【写真上左】茎の部分は小口切りにしてニンニク醤油に漬け込む。【写真上右】左の小瓶は今回漬けたばかりのもの。数日経つと味が馴染み右のように色が変わり漬物らしくなる。

残った茎は投稿ブログの一部で「堅いから捨てる」と書いてあるが勿体ない、『耳』よりも多少長めに茹でて「きんぴら」や炒め物に使う。簡単なのは漬物で「味噌漬」が一般的だが、古雅楽館では「ニンニク醤油漬」か「キムチ」にする。漬け込んで一週間ほど経つと味が染み込んで美味しいが、3日目位から食べ始めるのでそれまで持ったことがない。

カラダに良く安くて旨い結構づくめ『めかぶ』だが食べ過ぎだけは注意。『沃素』の過剰摂取による問題もあるので、何事も「ホドホド」の食事を心がけるべきであろう。

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【写真上左】西洋かぶれの古雅楽館だが朝食だけは別。純ジャパニーズの粗食である。写りが良い様、気取ってセッティングしたがいつも格好つけて食べる訳ではありません。【写真上右】奥左手から「めかぶ納豆」、「鯖の文化干」、中左から「白菜浅漬」、「めかぶの茎ニンニク醤油漬」、「キャベツの煮浸し」、手前がご飯、「からし菜の味噌汁」。【写真下左】ご飯に「めかぶ納豆」をかけて食す。おいしー!【写真下右】「マツモの味噌汁」を紹介した別の日の朝食メニュー。奥は「コンニャクとゴボウ、人参の煮物」、中右は「網で焼いただけの長ネギ」。他に「切干大根のポン酢和え」もあったのだが食べた後なので撤去。どれも素朴な「おかす」ばかりですが、自称『フィッシュ・ベジタリアン』の古雅楽館は朝、加工品も含め肉類は殆どとりませぬ。

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1.乾物の『焼きまつも』は甚だ高価で「生」も流通は限られているが、宮城県では庶民的な値段で買える。ただ市場に出回るのはごく短期間で、石巻産は2月末から3月末まで。汁の具や酢の物として特有の歯触りを楽しむ。栄養価としての特徴はビタミンA(β-カロチン)が多いことで10g当り250μg、含有量の極めて多い人参の3倍強もある。なお一日当たりのビタミンA必要量は男性で850μg、女性で650μgである。

2.5月になると味が極端に落ちて食用に適さなくなるので『めかぶ漁』も三陸では桜の季節まで。理由は本文にもあるように子孫繁栄のため、胞子嚢形成へ栄養が廻されるから。

3.どちらも『水溶性食物繊維』である。食物繊維は一日当たり20g摂取することが基準となっているが、食生活の変化に伴い全世代で目標値に達していない。また野菜やキノコに含まれる『不溶性食物繊維』だけでも便秘の改善には繋がらず、かえって悪化するケースもある。不溶性:水溶性=2:1で摂るのが理想的とされる。『めかぶ』の食物繊維含有量は100gあたり3.4gなので、50gで1.7g、納豆混ぜ混ぜで+3.35g、最強の食物繊維食品『切干大根』の酢の物かサラダ30gで+6.21g、合計で11.26g。『めかぶ』が手に入らない一年の殆どは『塩蔵わかめ』や『ひじき』の煮物に代えれば、これだけで目標値の半分以上をクリアーできる。

4.『アポトーシス apoptosis』という。最近では『ナマコ』の成分が同様の作用、しかもかなり強烈に効くと話題になっている。『名探偵コナン』のストーリーを通して重大な鍵を握る毒薬(?)『APTX(アポトキシン)4869』も『アポトーシス』に由来する。

5.eicosapentaenoic acid = エイコサペンタイン酸。ヒトの体内ではEPAを合成できないとされ必須脂肪酸のひとつ。魚に多く含まれるが『穴子』、『鰯(いわし)』、『鰻(うなぎ)』、『鯖(さば)』、『銀鮭(ぎんざけ)』等に顕著で効能は本文の通り。

6.これまで記した効用は数々の食品栄養関係のコラムや健康ブログ、メカブ直販店のHP等をまとめたものだが、全てが臨床学的見地から厳密に証明されたものではない。Wikiを開くとかなり慎重な記述になっている。

7.『ONE PIECE』の『トニートニー』でも、映画『イージーライダー』の改造バイクでもありません。日本では『クレーバーナイフ』が本来の名だが、実際は「Cleaver クリヴァ―」であって「Clever クレヴァ―(=賢い)」とは一文字違い。なので「手際の良い包丁」<意訳>よりは『チョッパー』のネーミングが好きだ。どうでもいいけど・・・。軟骨・小骨や腱の解体、南瓜等の硬い野菜を切り分ける、大蒜(にんにく)を潰す等に使用する。『鉈(なた)』の様に叩き切るので、刀身が幅広く厚くて重いのが特徴。広義には『中華包丁』や『出刃包丁』もこのグループに含まれる。

8.卵白を「ツノ」が出るくらい泡立たせた食材。「マシュマロ」や「シフォンケーキ」の材料として重要。

9.『沃素』の過剰摂取による弊害としては『甲状腺機能低下症』があり、特に妊婦や新生児、乳幼児にとっては要注意である。日本での食事摂取基準では、成人摂取推奨量を 130μg、上限を2.2㎎としているので、昆布(食品の中で最も多く含まれ、佃煮だと大匙一杯で1.6㎎)の連食は好ましくないとされるが、体質的に日本人は『沃素』の過剰摂取に対する影響が発現しにくい民族であると考えられている。健康な成人なら排泄により調節されるので、極端に神経質になる必要はない。因みに『めかぶ』は100gあたり390μg、写真に掲載したモデルも原形は500g程だったから仮に全部食べても問題なし。

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【トップ写真】今月初めに娘が戴いた花束。ピンク色中心のパステルカラーが如何にも春らしく、食卓に華やぎを添える。

 

 

 

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